営業担当者が、AIを使って顧客向けの説明ページを作る。文章だけでなく、簡単な画面まで形にする。以前なら別の担当者へ頼んでいた作業に、自分で着手できる。
これは、AIによる仕事の変化を考えるための仮の例だ。作れるものが増えるとき、もう一つ決める必要が出てくる。その成果物を、何をもって使ってよいと判断するのか。
OpenAIが2026年9月16日に公表した分析では、2026年4〜7月の150万件超の仕事関連ChatGPTメッセージを分析し、通常の職業範囲を越えるタスクの一部が繰り返し利用されていると報告した。OpenAI公式発表
ここで観察されているのは、AIを使って担当外のタスクへ取り組み、その一部をワークフローへ取り込む行動である。
ただし、これはChatGPT上で観察された利用の分析だ。担当外の仕事に習熟したこと、成果物の品質が上がったこと、専門家と同等の判断力を得たことを示す研究ではない。研究を公表したのも、分析対象のサービスを提供するOpenAI自身である。
つまり、「担当外の仕事をする人が増えた」と「担当外の仕事を正しく評価できる人が増えた」は別の主張である。
FORWARD BASISがここから考えたいのは、仕事を引き受ける範囲と、正しさを判断できる範囲の関係だ。AIで作業可能範囲が広がるほど、「作れた」と「使ってよい」を分ける評価設計が必要になる。
冒頭の営業担当者に戻ろう。顧客が何を知りたいかを理解していれば、説明ページの試作にはその知識を使える。一方、表示が崩れる条件や、入力された情報の扱いについては、本人が問題に気づけないかもしれない。見た目が完成しているほど、確認すべき箇所も片づいたように感じてしまう余地がある。
ここで必要な専門家への相談は、作業のすべてを頼む形だけではない。「この画面で、公開前に確認するべき箇所はどこか」と、試作品を持って相談する形も考えられる。以下は研究結果そのものではなく、FORWARD BASISによる仕事の進め方の提案だ。
成果物ごとに、少なくとも三つを分ける。
1. 作業完了 - AIを使って形にできたか。
2. 品質判定 - 正しさ・安全性・要件適合を誰が確認できるか。
3. 運用責任 - 公開後に問題が起きたとき、誰が直し、判断するか。
この三つが同じ人である必要はない。
自分で試せる作業、専門家に確認してもらう箇所、利用後に問題が起きたときの担当。この区切りを決めておけば、試作ができた段階と、実務で使える段階を混同しにくくなる。小さなチームなら、まず今回の成果物についてだけ書き出せばよい。
学び方にも、この区別は使える。AIで新しい仕事を完成させた後、「次はAIなしでも全部できるか」と問う必要はない。むしろ、自分が説明できない判断や、誤りを見つけられなかった箇所を確かめたい。そこには、次に学ぶ意味のある知識が残っている。
担当外の作業を繰り返しているなら、一度だけ、その成果物を詳しい人と見直してみる。「どこを直すか」に加えて、「なぜ、そこを確認するのか」まで聞く。作業を終える力と、出来上がりを見極める力を、一緒に育てるために。
SOURCE / 原典
この記事の出典
本文の事実確認に使用した原典です。FORWARD BASIS独自の解釈・整理は本文内で区別しています。