6つの商品が、同じ画面に並んでいる。
価格、容量、契約期間、サポート範囲、解約条件。違いはたくさん書かれているが、どれが自分に重要なのかは分からない。
別の画面には18の商品がある。ただし、「初めて使う」「チームで使う」「細かく設定したい」の3つに分けられ、それぞれに最初の候補が示されている。
選択肢が少ないのは前者だ。それでも、選びやすいのは後者かもしれない。
ここで見落とされやすいのが、選択肢の数は見えるが、比較するための仕事は見えないということだ。
私たちは商品を選ぶとき、表示された候補を見るだけではない。
• 何を基準に比べるかを決める
• 違いが自分に関係するかを判断する
• 一方を取ることで何を失うかを見積もる
• 決めたあとに後悔しないかを考える
この、ユーザー側に残された未解決の判断を、この記事では「比較仕事」と呼ぶ。
選択設計で減らすべきものは、必ずしも商品数ではない。先に減らすべきなのは、ユーザーが一人で片づけなければならない比較仕事である。
「選択肢が多いほど悪い」は、研究の結論ではない
選択肢が増えると決められなくなる——いわゆる「選択過多」は、商品設計やマーケティングでよく使われる説明だ。しかし、研究結果は単純ではない。
Scheibehenne、Greifeneder、Toddが2010年に行ったメタ分析は、50件の公表・未公表実験から63条件、計5,036人分を検討した。その結果、選択肢を増やすことによる平均的な悪影響は、ほぼゼロだった。一方で、研究間の差は大きかった。
つまり、「選択肢が多い」という条件だけでは、選択過多が起こるかどうかを十分に説明できなかった。
その後、Chernev、Böckenholt、Goodmanが2015年に行った別のメタ分析は、99観測、計7,202人分を対象に、どの条件で選択過多が起きやすいかを整理した。そこで示された主な調整要因は、次の4つだった。
条件 何が重くなるのか 商品画面で起こりうる例
選択肢集合の複雑さ 候補同士の差を理解しにくい 項目が多く、優劣の方向もばらばら
意思決定課題の難しさ 判断そのものに多くの労力が要る 比較時間が短い、属性が専門的
好みの不確実さ 自分が何を重視するか分からない 初回購入で、使用感を想像できない
努力を減らしたい目的 深く比較する動機が弱い 「とりあえず早く決めたい」場面
右列は研究結果そのものではなく、4要因をプロダクト設計へ置き換えたFORWARD BASISの解釈である。
2010年の研究と2015年の研究は、「片方が間違い、片方が正しい」という関係ではない。前者は、候補数だけを見た平均効果が小さいことを示した。後者は、平均に埋もれていた条件差をモデル化した。
ここから言えるのは、「少なくすれば必ず選ばれる」ではない。
より正確には、候補が多く、しかも比較仕事が重いときに、選択の延期や不満が起こりやすいということだ。
商品を削る前に、比較仕事を分解する
選びにくい売り場を見つけたとき、いきなり商品を半分にする必要はない。まず、ユーザーがどこで止まっているかを見る。
たとえば、3つの料金プランがあるとする。
「Basic / Standard / Pro」とだけ並べても、初めて見る人には判断基準がない。そこで「個人利用 / 小規模チーム / 複数部署」と用途を添える。機能表の全項目を同じ強さで見せるのではなく、選択を左右する差だけを先に示す。迷う人には推奨プランを置き、詳細を知りたい人には全比較を残す。
これは候補を隠すことではない。選択の入口に順序をつけることだ。
FORWARD BASISでは、比較仕事を軽くする設計を次の順で考える。
1. 目的を先に聞く「何が欲しいか」ではなく、「何をしたいか」で入口を分ける。
2. 重要な差を2〜4個に絞って先に見せるこの数は研究上の万能値ではなく、実装を始めるための編集上の目安である。詳細項目は消さず、二段目に置く。
3. 推奨を“正解”ではなく“開始点”として示す「多くの人におすすめ」だけでは弱い。「週1回使う人向け」のように、推奨理由を明らかにする。
4. あとから選び直せることを伝える変更や返品が難しい選択ほど、比較仕事は重くなる。可逆性があるなら、その事実を判断の前に示す。
5. クリック率だけで評価しない決定完了率、選択までの時間、購入後の変更、問い合わせ、選択への自信などを見る。早く押されたことと、納得して選ばれたことは同じではない。
選択肢を減らさないほうがよい人もいる
比較仕事を減らすことは、品ぞろえを一律に減らすことではない。
好みが明確な人や、専門知識を持つ人にとっては、選択肢の広さそのものが価値になる。用途が多様なのに候補を少数へまとめれば、少数派の需要を切り落とす可能性もある。推奨表示は便利だが、売り手に都合のよい選択へ誘導する道具にもなりうる。
だから、良い選択設計には二つの層が必要になる。
• 迷っている人には、目的別の短い道筋をつくる
• 分かっている人には、全体と詳細へ直接進める道を残す
「全員に3択」ではなく、「必要な深さまで迷わず進める」が目標だ。
小さく試すなら
既存の商品数を変えず、まず一つの売り場だけで試せる。
• ユーザーが最初に決める基準を一つ置く
• 比較表の冒頭を、選択を左右する差だけにする
• 推奨候補に理由を一文添える
• 「すべて見る」導線は残す
そのうえで、決定率だけでなく、選び直しや問い合わせまで見る。
選択肢の数は、管理側が数えやすい。比較仕事は、ユーザーの頭の中にあるため数えにくい。
しかし、選びやすさを左右しているのは、しばしば後者だ。
減らすべきなのは商品ではない。ユーザーに残したままの、未解決の比較仕事である。
Sources
• Benjamin Scheibehenne, Rainer Greifeneder, Peter M. Todd, “Can There Ever Be Too Many Options? A Meta-Analytic Review of Choice Overload,” Journal of Consumer Research 37(3), 2010. Author manuscript (PDF) / DOI
• Alexander Chernev, Ulf Böckenholt, Joseph Goodman, “Choice Overload: A Conceptual Review and Meta-Analysis,” Journal of Consumer Psychology 25(2), 2015. Publisher page / DOI
SOURCE / 原典
この記事の出典
本文の事実確認に使用した原典です。FORWARD BASIS独自の解釈・整理は本文内で区別しています。