11時17分、資料をつくっている途中で、別件の連絡が入る。

急ぎではある。ただ、今の作業も中途半端だ。

そこで別件を開く前に、40秒だけ使って、こう残す。

提案書3節で停止。次はA案とB案の価格差を書く。数字は料金表の「比較」タブ。15時30分に再開。

これは単なるToDoではない。

「次に何をするか」「何が必要か」「いつ戻るか」を、いまの自分から未来の自分へ渡す復帰メモだ。

仕事の中断を完全になくすことは難しい。顧客対応、相談、会議、家庭からの連絡。通知を切っても、切り替えが必要な日はある。

ならば、集中力を守る対象を「中断されないこと」だけに置かないほうがいい。

設計できるのは、中断した仕事を頭から下ろし、あとで迷わず戻るための手がかりでもある。

未完了の仕事は、頭の中で静かに動き続ける

組織行動研究者Sophie Leroyは2009年、仕事を切り替えたあとも前の課題への注意が残る現象を「attention residue」として検討した。

2つの実験で、前の課題から注意を切り離せないと、次の課題でのパフォーマンスが下がることが示された。特に、前の仕事が未完了のまま切り替わると、意識の一部がそこに残りやすかった。

画面上では新しい仕事をしていても、頭の一部では前の判断を続けている。

未完了の仕事は、一覧に残っているだけではない。注意を占有するバックグラウンド処理にもなりうる。

ここでありがちな対策は、「中断を減らそう」で終わることだ。もちろん、不要な会議や通知は減らしたほうがいい。しかし、現実には避けられない中断もある。

そこで、LeroyとTheresa Glombは2018年の研究で、中断された課題へ戻るための計画に注目した。

4つの研究では、中断した仕事を時間に追われながら再開しなければならないと予想すると、その後に取り組む割り込み課題へ注意の残りが生じ、成績が落ちることが示された。一方、元の仕事へどう戻るかを短く考えて計画する「ready-to-resume plan」は、その影響を和らげた。

重要なのは、気合いで忘れることではない。

戻る道筋を外に置くことで、いま覚えておく必要を減らす。

復帰メモは「続きから」では足りない

「あとで続き」とだけ書くと、再開した自分は、もう一度状況を復元しなければならない。

ファイルを開き、前後を読み、何に迷っていたかを思い出し、次の一手を決める。この再構築が重いほど、戻ること自体を先延ばししやすい。

FORWARD BASIS式の復帰メモは、次の4項目でつくる。

1. 停止点:どこまで終わったか

2. 次の一手:再開直後に手を動かす一つの行動

3. 必要物:開くファイル、確認する数字、聞く相手

4. 復帰時刻:いつ戻るか、または何の直後に戻るか

悪い例は、「企画書を続ける」。

良い例は、「導入まで完成。次は顧客インタビュー3件から共通語を抜く。メモはNotionの『4月調査』。昼食後13時に再開」。

文章をきれいに書く必要はない。30〜60秒で、未来の自分が最初の一歩を迷わない程度に具体化すればよい。この時間幅は研究が示した万能値ではなく、習慣にしやすくするための実務上の目安だ。

個人の技術だけでなく、チームの作法にする

割り込みが多い職場で、本人だけに「集中してください」と求めても限界がある。

チーム側でできる小さな設計がある。

• 緊急時を除き、「今いいですか」のあとに1分の区切り時間を認める

• 依頼には、期限と緊急度を添える

• 会議の開始時刻を守り、作業を閉じる余白を奪わない

• チャットの即答を、常時の標準にしない

中断を依頼する人から見れば、1分は待ち時間だ。しかし、その1分で前の仕事の復帰コストが下がるなら、チーム全体では安い可能性がある。

測るべきものも、通知件数だけではない。

再開してから手が動くまでの時間、同じ箇所の読み直し、抜け漏れ、終業時に残る未完了感。集中の問題を「何回邪魔されたか」だけで捉えると、戻り方の良し悪しを見失う。

復帰メモにも限界がある

この方法で、切り替えコストが消えるわけではない。

緊急対応ではメモを書く時間すらない。ごく単純な作業なら、メモを残すほうがかえって重い。創造的な問題では、いったん離れることが新しい発想を助ける場合もある。2018年の結果も、あらゆる職種・中断・期間で同じ効果を保証するものではない。

また、復帰メモを細かな報告制度にすると逆効果だ。目的は管理者へ説明することではなく、自分の注意を安全に手放すことにある。

だから使う場面は、こう絞ればいい。

考えかけの判断があり、あとで確実に戻る必要がある仕事を中断するとき。

次に別件へ移る前に、次の一手を一行だけ残す。

集中を守るとは、何時間も途切れず働くことだけではない。

途切れたあとに、自分の思考へ戻れることでもある。

Sources

• Sophie Leroy, “Why Is It So Hard to Do My Work? The Challenge of Attention Residue When Switching Between Work Tasks,” Organizational Behavior and Human Decision Processes 109(2), 2009. Abstract and bibliographic record / DOI

• Sophie Leroy, Theresa M. Glomb, “Tasks Interrupted: How Anticipating Time Pressure on Resumption of an Interrupted Task Causes Attention Residue and Low Performance on Interrupting Tasks and How a ‘Ready-to-Resume’ Plan Mitigates the Effects,” Organization Science 29(3), 2018. DOI

SOURCE / 原典

この記事の出典

本文の事実確認に使用した原典です。FORWARD BASIS独自の解釈・整理は本文内で区別しています。

  1. 論文Leroy — Why Is It So Hard to Do My Work? The Challenge of Attention Residue (2009)
  2. 論文Leroy & Glomb — Tasks Interrupted / Ready-to-Resume Plan (Organization Science, 2018)