月曜の朝、今週の目標を並べる。
• 企画書を完成させる
• 顧客インタビューを5件行う
• 採用候補者に連絡する
• 読みたかった本を読み切る
どれも大切だ。どれも実行できそうに見える。ところが金曜になると、半分しか終わっていない。
ここで「自分は意志が弱い」と結論づけるのは早い。問題は、目標の数ではなく、目標をつくった順番にあるかもしれない。
それぞれの目標を個別に考えるとき、私たちは同じ一週間を何度も使ってしまう。企画書について考えるときには、企画書に十分な時間がある気がする。インタビューについて考えるときにも、やはり十分な時間がある気がする。頭の中では、一週間が目標の数だけ複製される。
現実の時間は一つしかない。
SOURCE|12の実験が比べた「目標→時間」と「時間→目標」
2026年に Organizational Behavior and Human Decision Processes に掲載されたSarah A. MemmiとJordan Etkinの研究は、複数の目標を扱うときの順番に注目した。
研究者が検証したのは、次の二つの考え方だ。
一般的な順番「資料を何枚つくる」「記録を何件更新する」「メールを何通処理する」と成果目標を決め、その全体を限られた時間内で行おうとする。
時間を先に配る順番まず使える総時間を確認し、それを仕事ごとに分ける。その後で、各時間枠の中で達成する成果量を決める。
論文の例なら、2時間を「執筆60分・顧客記録30分・メール30分」に分けてから、それぞれの成果目標を置く。
主実験7件、補足実験5件の計12件を通じ、時間を先に配った参加者は、総時間に対してより整合的な成果目標を設定した。目標の数値自体は低くなったが、それは意欲が落ちたという意味ではない。使える時間を暗黙に水増ししなくなった結果だ。
さらに、設定した目標に沿って時間と作業量を配分しやすくなり、複数目標を合計した進捗も増えた。結果への満足感が高まる場合もあったと報告されている。
重要なのは、「低い目標のほうがよい」という結論ではない。
制約を見ない高い目標より、制約を織り込んだ目標のほうが、複数の仕事を前に進めやすかったという話だ。
なぜ、目標を先に決めると時間が増えて見えるのか
一つの目標だけを扱うなら、「具体的で挑戦的な目標」は力を持つ。問題は、複数の目標が同じ時間を奪い合っている場面だ。
「今週中に企画書を完成させる」という文には、必要な時間が書かれていない。「顧客インタビューを5件する」にも、準備、実施、記録にかかる時間は現れない。目標だけを並べると、共有資源である時間が見えなくなる。
時間を先に分けると、競合が可視化される。
企画書に6時間を渡せば、その6時間はもう採用活動には使えない。インタビューに4時間を渡せば、読書に使える時間は減る。少し窮屈に感じるのは、計画が悪くなったからではない。最初から存在していた制約が、ようやく見えたからだ。
この違いは、単なるスケジュール術より深い。
成果目標とは、本来「望みの表明」ではなく、資源を成果へ変換する見積もりである。時間を入れずに成果だけを決めると、その見積もりは片側しかない。
FORWARD BASIS VIEW|目標は、約束ではなく配分の結果である
目標管理では、未達の原因を実行者の努力に寄せやすい。
しかし未達には、少なくとも二種類ある。
1. 使える時間に対して妥当な目標だったが、実行できなかった
2. そもそも複数の目標が、同じ時間を重複して使う設計だった
この二つを分けないと、計画の欠陥が「本人のやる気」の問題に変換される。
だから、目標を評価する前に見るべきなのは高さではない。全目標を一枚に置いたとき、時間の総量が合っているかだ。
個人でもチームでも、目標設定の会議で数字だけを詰めると危うい。「何件やるか」を決めた後に時間を探すのではなく、「この期間に、本当に配れる時間は何時間か」を先に確定する。すると、何を減らすか、何を遅らせるか、どこに人を足すかという、本来の経営判断が始まる。
ただし、時間割を精密にすればよいわけではない
この方法にも限界がある。
研究が扱っているのは、限られた総時間の中で複数の価値ある目標を追う場面だ。一つの最重要課題に資源を集中すべき局面や、着手してみるまで必要時間がほとんど分からない探索的な仕事では、細かな配分がかえって動きを鈍らせることがある。
また、時間枠を固定しすぎれば、割り込みや発見に対応できない。「90分と決めたから、価値のない作業でも90分続ける」となれば本末転倒だ。
公開されている論文要旨だけでは、12実験それぞれの参加者構成や効果量の幅をすべて確認できない。したがって、どの職種・どの期間でも同じ大きさの効果が出るとは言えない。
使うべきなのは、分単位の精密さではなく、資源の重複を見つけるための粗い予算である。
TRY THIS|次の1週間を「時間→成果」の順でつくる
次の計画では、15分だけ順番を変えてみる。
1. まず、会議や定例業務を除いた「本当に配れる時間」を出す
2. そのうち15〜25%を、割り込みと見積もり誤差のために残す
3. 残りを、進めたい仕事へ先に配る
4. 各時間枠の中で現実的な成果量を決める
5. 週末に、目標の達成率だけでなく「配分時間と実績時間の差」を見る
たとえば自由に使える時間が10時間なら、最初から10時間分の成果を約束しない。2時間を余白として残し、企画4時間、調査2時間、連絡2時間と置く。その後で「4時間なら企画書の初稿まで」「2時間なら5件ではなく3件の調査まで」と決める。
目標が少し低く見えても構わない。
金曜に残るのが、大きな未達と自己嫌悪ではなく、次の見積もりに使えるデータなら、その計画は前進している。
SOURCES
• Sarah A. Memmi & Jordan Etkin, “Time before goals: the benefits of budgeting time first for multiple goal setting and pursuit,” Organizational Behavior and Human Decision Processes,195, 104498 (2026). DOI / 要旨・書誌情報
• 補足実験5の事前登録(2020年2月12日)。単なるタスクの詳述・時間の詳述と、時間を実際に配分する条件を分けた設計が確認できる。AsPredicted
2|BUSINESS / WORK DESIGN
SOURCE / 原典
この記事の出典
本文の事実確認に使用した原典です。FORWARD BASIS独自の解釈・整理は本文内で区別しています。